長距離砲の指標「IsoP」とExcelの計算式

野球と算数

長距離砲の証明・IsoPアイエスオーピー(Isolated Power)

長打力を評価する指標

野球の打者には色々なタイプがいます。イチローのような高い打率を残す打者、ホームランが多い打者。足の速い打者。近年では阪神・大山のような四球を選べる、出塁率の高い打者が評価を上げております。

セイバーメトリクスに、その中の「長打力に突出した選手」を評価するための指標があります。純粋に長打のみを評価した指標IsoP(Isolated Power)。直訳すると「パワーを分離する」という意味、文字通りパワーヒッターの要素を取り出した値です。いったい、どのような指標なのでしょうか?

 

IsoPの計算式

IsoP=長打率―打率

上記のとおり、長打率から打率を引いた値がIsoPです。

※打率はこちらで確認可能です

※長打率はこちらで確認可能です

 

IsoPの式を展開する

長打率と打率を合わせた式を展開すると、煩雑になり分かりにくいかも知れません。しかし指標の本質を見るためにも、式を展開してみます。

式1-1

IsoP=長打率―打率

やはり分かりにくいですね。これではIsoPといわれても良く分からなくなります。ここは、実際に計算して結果を確認した方が分かりやすいと思われます。

下の例にある打者①と打者②は、タイプの違う打者です。それぞれの打率・長打率・IsoPを導き出して、数字を見てみましょう。

例1:打者① の成績

100打数35安打 全てシングルヒット(1塁打)

打率=35/100=.350

長打率=(35+0×2+0×3+0×4)/100=.350

IsoP=長打率―打率=.350―.350=.000

 

例2:打者②の成績

100打数20安打 二塁打8・三塁打1・本塁打10

打率=20/100=.200

長打率=(0+8×2+1×3+10×4)/100=.590

 

IsoP=長打率―打率=.590―.200=.390

 

打者①は全てシングルヒットのため、打率と長打率が同じになり、IsoPは.000となってしまいます。対照的に打者②は、打率が低くても長打が多く、IsoPは.309となり、打者①より値が上になりました。。

 

IsoPでは、単打(シングルヒット)は0割

IsoPの「からくり」で、長打率から打率を引くということは「1塁打(シングルヒット)は0」ということになります。「先の塁に進むほど値が上がる指標」の長打率から、「シングルヒットでも本塁打でもヒット1本」の打率を引きます。それを式の展開で確認すると、IsoPの値は二塁打以上が対象となり、「単打×0=0」となりました。このことを踏まえ、塁打とIsoPを比べてみましょう。

 

塁打=単打×1+二塁打×2+三塁打×3+本塁打×4

IsoP=(単打0+二塁打+三塁打×2・本塁打×3)/打数

 

塁打もIsoPも、長打が出るほど率が上がるようになっています。しかし「二塁打2本と本塁打1本が同じ値になる塁打」に比べ、「IsoP」では「二塁打2本より本塁打1本の方が高い値」になります。また塁打ではシングルヒットが多い程、値がが大きくなる反面、IsoPでは多いと逆に値が下がります。これはシングルヒットの数だけ分母の「打数」が大きくなり、分子にはシングルヒットがカウントされないためです。

文字通りのIsolated Powerとなりました。

 

 

ExcelでIsoPの計算式を作る。

それでは、IsoPの計算式である「長打率―打率」を、Excelで計算式にしてみます。まずは長打率と打率をそれぞれ計算し、後から引き算すると分かりやすくなるでしょう。ここで重要となるのは、四則計算の順番です。Excelの計算式は、四則演算の順番を理解していないと作れません。Excelは今や一般化したツール、やはり四則演算を思い出して損はないでしょう。

四則演算はこちらで確認可能です。

 

 計算式の作り方

Excelは「表計算ソフト」と呼ばれるジャンルのツール。名前の通り、計算することが可能です。Excelで計算するためには、計算式を作る必要があります。

まずは計算式を作る「基礎の中の基礎」になる部分を確認してみましょう。既にExcelで表計算を行っている方には当たり前のことですが、Excelをこれから使う方にとっては、必ず覚えていただきたい内容です。

 

(1)計算式に使う記号

  • +:プラス → 足し算の記号
  • -:マイナスorハイフン → 引き算の記号
  • *:アスタリスク → かけ算の記号
  • /:スラッシュ → わり算の記号
  • (:丸かっこ → 優先して計算する始まり
  • ):丸かっこ閉じ → 優先して計算する終わり
  • =イコール → Excelで入力する数字・記号を計算式にする記号

 

例えば、下記のような分数を計算してみます。

 

これをExcelで計算すると以下の式になります。最初にセルに「=」を入力し、その後から数値や計算記号等を入力します。

=(3+4)/(5-4)

  • 注1.セルの入力時、1文字目に「=」(半角)を付けると、入力値が計算式になる。「=」が無いと計算しないので注意。
  • 注2.()を付けると、足し算と引き算の計算が優先される。付け忘れると、四則演算の決まりによって割り算が先に計算されてしまうので注意。

 

入力してリターンを押すと、計算結果が表示されます。

 

注意:この式に()を付けず、【=3+4/5-4】とすると、計算結果が変わってしまいます。これは、四則演算により割り算(ここでは4/5)が計算されるためです。慣れている技術者でもミスをすることがある部分ですので、式を作るときは注意して下さい。

 

 

これは四則演算の決まりにより「かけ算・わり算」を優先して計算し、その後「たし算・ひき算」を計算する機能を持っているからです。

そのため、Excelの計算では四則演算の決まりが重要になってきます。

 

2022年セリーグのIsoP

プロ野球選手の中で、IsoPの高い選手は誰でしょう。2022年のセリーグ打者成績から導き出すことにします。この年は、ヤクルトの村上選手が三冠王を獲得し、本塁打56本を記録しました。他の選手と比較するため、打撃10傑の成績を見てみましょう。

 

表1-1 2022年セリーグ打撃10傑

選手 単打 二塁打 三塁打 本塁打 安打数 打数 備考
村上宗隆(ヤクルト) 77 21 1 56 155 487 三冠王
大島洋平(中日) 117 18 1 1 137 436
佐野恵太(DeNA) 109 29 1 22 161 526 最多安打
宮﨑敏郎(DeNA) 99 24 1 6 130 434
ビシエド(中日) 101 27 0 14 142 483
近本光司(阪神) 132 16 3 3 154 525
岡林勇希(中日) 126 25 10 0 161 553 最多安打
牧秀悟(DeNA) 87 36 1 24 148 509
坂倉将吾(広島) 118 18 3 16 155 539
吉川尚輝(巨人) 110 20 6 7 143 516

 

表1-1の成績を、Excelに入力します。それを基にしたIsoPを導く式は、以下のような計算式を作ります。計算結果は表1-2のとおりです

IsoP=長打率-打率

=((単打+二塁打数*2+三塁打数*3+本塁打数*4)/打数)(安打数/打数)

=((B4+C4*2+D4*3+E4*4)/G4)-(F4/G4) ←Excelでの計算式

­=((62+20*2+1*3+42*4)/497)-(125/497)

=0.392

※四則演算の決まりによって、長打率と打率の式はそれぞれ( )で囲う必要があります。

表1-2 2022年セリーグ打撃10傑の長打率・打率・IsoP

選手 長打率 打率 IsoP
村上宗隆(ヤクルト) 0.710 0.318 0.392
大島洋平(中日) 0.367 0.314 0.053
佐野恵太(DeNA) 0.490 0.306 0.184
宮﨑敏郎(DeNA) 0.401 0.300 0.101
ビシエド(中日) 0.437 0.294 0.143
近本光司(阪神) 0.352 0.293 0.059
岡林勇希(中日) 0.373 0.291 0.081
牧秀悟(DeNA) 0.507 0.291 0.216
坂倉将吾(広島) 0.421 0.288 0.134
吉川尚輝(巨人) 0.380 0.277 0.103

 

 

 

10人の打者成績を比較しても、56本塁打を放った村上選手のIsoPは突出しています。

比較的本塁打が多かった佐野選手・牧選手(共にDeNA)にしても、村上選手には遠く及びません。牧選手は本塁打24本の他、二塁打が36本と長打が多いにもかかわらず、IsoPは0.216。

やはりIsoPは、本塁打の多い打者がより高くなるのが分かります。

 

まとめ

「ホームランは野球の華」。しかし二塁打・三塁打はクロスプレーも増え、エキサイティングに感じます。そんな「長打」に焦点を絞ったIsoP。長距離砲ファンには嬉しい指標ではないでしょうか?

しかしIsoPは、あくまで長打にスポットを当てた指標というだけで、本塁打が少ない打者を否定するものではありません。ホームラン打者だけを並べてもチームが強くならないのは、野球ファンならご存じのはず。あくまで打者の特徴を表すための、ひとつの指標です。

IsoPはネットや新聞の打撃成績に記載されることが少ないこともあり、野球好きなら是非チェックしていただきたい指標のひとつでもあります。本塁打数だけでは計れない長打も、魅力の一つではないでしょうか?

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